case1 曜子と力
place:家
time:朝
「さ〜今日も仕事よ〜〜〜!!」
身支度を整え、白衣を抱え、もちろん(w)ヨーコ犬も抱え出勤準備中。
毎度のごとくその後ろで所在なさげに立っている力・・・・・・。
「なぁに?」
「いや・・・今日も仕事・・だよな・・?」
「あったりまえじゃない!!!」
手には大きな空バッグ。
「・・・それ?」
「うふふ〜〜〜」
曜子はにんまりするだけ。
「よ・・・・曜子!!」
「なに?」
リビングを出ようとする曜子に力は抱きつくと
「きょ・・・今日は俺と出かけよう!!!!な!な!」
「いや〜よ〜」
「ようこぉ〜〜〜・・・」
情けない声を出しながら力は曜子にしがみつく。
・・・・そのまま5分経過・・・・・・
「・・・・仕方ないわね・・・・わかったわ。」
「ほんとか!!」
ぴか〜ん!と輝かんばかりの笑顔を見せる力。
「どこに連れて行ってくれるの?」
にっこりと力に微笑む曜子。
「えっとな。まずはあの店行って・・・・」
話し始める力を満足げに眺めながら・・・・
・・・ま今日ははなから休みとってたんだしね。
・・・二枚も三枚も曜子のほうが上手でありました・・・・
case2 ゆりえと克
place:職場
time:出勤後
その日もいつもと同じ出勤風景。
「社長、本日の予定ですけれども。」
「はい。」
「本日はオフとなっております。」
「?」
不振顔でゆりえは克を見やる。
「ここのところ仕事が立て込んでおりましたので予定を調整させていただきました。」
「・・・・」
「つきましてはこの後ご自宅までお送りいたします。」
ゆりえはまっすぐに克を見つめた。
克はひとつ咳払いをすると、
「運転手は私です。」
その一言にゆりえは立ちあがる。
「そう。」
「はい。」
克が社長室のドアを開ける。
「で、どこへ行く予定なの克?」
「さて、どうするかな・・・・好きなとこ連れて行ってやるよ。」
「そう、ありがとう。」
ゆりえはそっと克の腕に手を伸ばした・・・
case3 ココと卓
place:学校
time:昼
「真壁〜。」
「なんだ?」
もう学校は春休みに突入していた。
それでも卓が学校に来ていたのにはわけがあった。
「ミーティング終わったのか?」
「ああ、さっきな。」
「なぁ、よかったら今から少しつきあわねぇか?」
「なんだよ。」
「いや・・そのな・・・・買い物行きてぇんだ。」
「買い物?」
「ほら、その・・お返しってやつをな・・」
「・・・?・・!あ、そうか。今日だったな・・・」
「お前・・忘れてたのか?」
「・・いや、そういうわけじゃ・・」
「いいだろ?な?」
「いいけどな。」
ま、ついでだしな・・・
友人と二人連れ立って校外へ行く卓を遠巻きに見る面々・・・
「あ〜・・真壁くん帰っちゃう・・」
「ねぇ?結局誰ももらってもらえなかったの?」
「みたい・・・・だよね・・・」
「真壁、なににする?」
「俺はいいよ・・別に。」
「見ろよ、あれなんかいいよなぁ・・・」
「・・・・」
ごそごそと卓はポケットから財布を取り出すと中から小さな紙片を店員に渡す。
「すみません、これ・・・」
「はい。・・・少々お待ちください。」
「・っなんだよ、準備済みかよ・・」
卓はにやりと小さく笑う。
「まぁな。」
「俺は・・どれにすっかな・・」
店員が小さな箱を持って卓の前に来る。
「こちらで間違いございませんね?」
「はい。」
「ではお包みしてまいります、少々お待ちください。」
「なに買ったんだ?」
「お前こそなににすんだよ。」
「へへ〜ひ〜み〜つ〜だよ〜〜」
「じゃ、俺もだ。」
二人互いに小さな袋を持って店を出る。
「じゃ俺もこの後待ち合わせだし、じゃな。真壁。」
「ああ。」
時計をちらりと見ると卓は早足で駆け出した。
約束の時間はあと少しー
待ち合わせの駅前でココはすでにいた。
「卓!」
「ああ・・・」
「久しぶりだね〜お出かけするの。」
「そうだな・・これ、やる。」
「え?」
今さっき買ったばかりのその袋をそれごとココに押し付ける。
「何?」
「いいから。」
「開けていい?」
「あとでにしろよ。」
「え〜・・・」
不満げなココに卓はあきらめたように人気の無い小道に連れ込む。
「・・・ここでならいい。」
「うん。」
がさごそと開けるその中にはシンプルなネックレス、cocoと彫られている。
「卓・・・」
「まぁ・・・そのなんだ・・・ココにやるよ・・・」
「ありがとう、つけていい?」
「ああ。」
きらりと光るそのチェーン。
「似合う?」
・・・似合うに決まってるだろうが・・・
「じゃ、行くぞ。」
「うん。」
二人手を繋いで歩き出すー
case4 愛良と新庄
time:放課後
place:花や
本日の花やは大忙しであった。
朝から新庄はバイトに入り、なんやかんやとあわただしい。
「今日はくんじゃねぇぞ。忙しいからかまってやる暇はねぇ。」
そう言い渡されていた愛良ではあったが
「遠くから眺めるだけならいいよね〜〜」
という大義名分のもと近くからそっと花屋の店先を伺う。
入れ替わり花を求める人がひっきりなしに出入りしていた。
「・・・ほんとに大忙しだなぁ・・・」
バレンタインの時は女性に囲まれる新庄にやきもきしつつもいた愛良ではあったのだが今日に関してはそれすらも思わなかった。
「邪魔しちゃこれはだめだなぁ・・」
そう呟くとくるりと後ろを向き歩き出そうとした。
「おい。」
背後から声がかかる。
「ひゃ!」
「今日は来るんじゃねぇと言っておいたはずだが?」
そろそろと後ろを振り向くとででんと新庄の姿。
「も・・ももも・・もう、帰ります〜〜〜。」
恐る恐るそう言って愛良は後ずさり。
「ほら、これ。」
新庄がずいっと愛良に差し出す。
「こないだのチョコのお礼だ。やる。」
かわいらしくラッピングされた小さな花束と小さな包み。
「え?」
「チョコは旨かった。」
「う・・うん。」
「じゃ、俺は仕事に戻るから寄り道せずにまっすぐ帰れよ。」
ぽんぽんと頭を軽くなでるようにはたく新庄。
子ども扱いされているようで、でもプレゼントがうれしい愛良。
「うん・・・ありがとう・・・」
「じゃな。」
急ぎ足で店に戻る新庄を見送ると愛良も歩き出しながら包みを開く。
かわいらしいヘアアクセサリーがひとつ。
帰宅の足取りも軽く、まるで羽が生えたかのよう・・・・
case4(裏) 愛良と開陸
time:夕方
place:道端
・・おっせ〜な・・・・
開陸は少々いらつきながら遠くをみやる。
電話をしてみたら
「今少し買い物を頼んだところなのよ〜すぐ帰ると思うわ〜〜。」
とのんびりした彼女の母親の声。
ということで家の近くの公園に来ていたのだ。
道に一筋の影が出来る。
長い髪の女の影。
小さく鼻歌まで聞こえる。
少しずつ近づいてくる。
「おい。」
「きゃぁ!!!」
悲鳴の一歩手前のような声を上げて立ち止まる。
「な・・・なんだ・・・開陸。びっくりさせないでよ〜〜。」
「あ〜・・愛良?」
「なに?こんなところで。」
「いや・・・・」
「お母さんに夕飯の買い物頼まれちゃって早く帰らなきゃなの。」
「うん・・」
「なに?」
「これ・・・・やる。」
恥ずかしそうに小さな袋を差し出す開陸。
「なに?」
「先月の・・お礼。」
袋の中には小さなお菓子とかわいい小物入れ。
「あ・・・ありがと・・・」
「あ・・・愛良。」
「なに?」
開陸はきゅっと唇を固く結ぶと愛良の手をぎゅっとにぎり自分の方へ引き寄せる。
「え?え?・・」
戸惑う間もなく愛良の唇の上にぬくもりが重なった。
驚きで目を見開くと、そのまま、そっと目を閉じた・・・・・・
case5 なるみと鈴世
time:夕方
place:二人の家
「ただいま〜」
「おかえりなさ〜い。」
帰宅した鈴世は空になった紙袋を畳んで片付けた。
「喜んでくれた?」
「うん、みんなにお返ししてきたよ。」
「お疲れ様、今日はポトフよ。」
「いいにおいだね〜おなか空いたよ。」
「おなかすいた〜〜」
「すいた、すいた。」
二人の子供たちも一斉に騒ぎ出す。
「こら。お前たち。お前たちはお母さんになにかあげたのか?」
「うん、今日いっぱいお手伝いした。」
「僕も〜〜」
「そうか、ならいいな。」
鈴世はそういうとかばんから小さな箱を取り出した。
「なるみ、これは僕から君にだよ。」
「鈴世くん・・・・嬉しいっ!・・・」
こぼれそうな笑顔でなるみは鈴世は見つめる。
「あ〜あ・・・・」
息子二人はいつものごとく後ろを向く。
箱の中身はイベントごとに増えていく真珠の粒・・・・もういくつになったかわからないほど。
「今度、これをネックレスにしよう、なるみ。」
「うん、鈴世くんのネクタイピンもしましょ・・・・」
「おそろいだね。」
「うん。いつも一緒ね。」
case6 蘭世と俊
time:(もちろん)夜
place:(もちろん)寝室
いつもの夕食。
いつものくつろぎ時間。
俊はいつに無く落ち着かない。
娘の愛良の髪留めが見たこと無いものになっていることも気に食わないし、卓が今日はいないっていうこともなんとなく気にはなる。
それ以上に隠しておいたあれも気になる。
「おやすみなさい、おとうさんおかあさん。」
「おやすみ、愛良。」
「おにいちゃん・・は?」
「さぁ・・・今日は遅いんじゃないかな?」
「ココおねえちゃんと一緒かなぁ?」
「多分ね。さ、早く寝なさい。貴方は明日も学校なんだから。」
「は〜い。おやすみなさい。」
ふわふわと嬉しそうに階段を上る。
「私片付けしてお風呂入ってくるね。先寝てる?」
「あ〜・・・とりあえず少しストレッチでもしてからな。」
「うん、無理しないでね?」
「ああ、わかっている。」
かちゃかちゃと食器の音と水音。
しばらくするとそれも無くなり、バスルームに入る音がした。
俊はトレーニングルームで少し身体を動かすと、隠しておいたあれを寝室のドレッサーの上に置く。
階下に下りるとちょうど蘭世はあがったところ。
「あ、俊。シャワー浴びるの?」
「ちょっと動きすぎて汗かいちまったからな。」
「先に寝室行っているね。電源お願いします。」
「わかった。」
ざっと流すと俊はバスルームを出る。
先ほどまで来ていたジャージの代わりに洗い立ての部屋着がそこには畳まれてあった。
俊が寝室に入ると蘭世が戸惑った顔で出迎えた。
「これ・・・」
ラッピングされた小さなそれを手のひらに載せ蘭世は俊に問いかける。
「ああ、開けてみろよ。」
「な・・なんで?」
「・・まぁ一応な。お返しってやつだ・・」
実は数日前卓に説教をされたのだ。
親父が母さんのことを大事なのはわかっているけど、たまにはなにかしてやれば?と。
そういう卓が彼女に買い物をしていたのは知っていたのだが。
まぁそれもあって俊は似合わないと思いつつも買い物に行ったりなんかしたわけだ。
「何?」
しゅるんとリボンを解き中を開けてみる。
そこには小さなリップとリップブラシ。
「可愛い!どうしたのこれ?」
「・・・・・・買ったにきまってんだろ。」
照れたようにそっぽを向きながらそう答える俊。
何をやるか何にも考えずに百貨店に出かけ、ふと目に付いたそれを買って来たのだ。
蘭世によく似合いそうなやわらかいピンクの口紅。
「定番のお色ですが、なかなか似合う方は少ないのですよ。」
肌の白い、蘭世にはよく映えそうな色。
「きれい・・・・・素敵な色ね。」
蘭世はいたく気に入ったようだった。
「つけてみろよ。」
「え?い・・・今?」
「ああ。」
俊はそう言ってみる。
「・・うん・・・・・」
ドレッサーの前に腰を下ろすとブラシにリップをつけそっと唇にのせる。
思ったとおり、白い肌、黒い髪によく似合った。俊が後ろから鏡を覗き込む。
「なかなか、似合うじゃねぇか。馬子にも衣装か?」
「どういう意味よ!」
口調は怒って、顔は笑いながら蘭世が俊に振り向いた。
俊は蘭世のあごを押さえると口紅に指を当てる。
「聞いたんだけどな。」
「ん?」
「男が口紅を女に贈るっていうのはな。」
そういうと俊は蘭世に口づける。
「ん・・」
置いたばかりの口紅を奪い取るように。
ひとしきり口腔を味わいつくすと唇を離し
「こうやって返してもらうためになんだと。」
至近距離でにやりと笑った。
「もうっ・・・・」
「今日の分を返してもらうかな・・」
「ちょ・・・もう・・もう。落ちたでしょ・・・」
「まだ、残っているぜ。」
そういうとひょいと蘭世を抱き上げ、ベッドへと運びおろす。
「ちょ・・・・だめ・・・しゅ・・」
「全部返せよ?」
俊は蘭世の抵抗の言葉など有無を言わせず、その唇をふさいだ。
「んん・・・・・」
・・・・・・・・今夜も夜は長い・・・・・(らしい・・・)
番外編
魔界にて
「アロン様。本日は人間界ではホワイトディなる日だそうですよ。ココがそう連絡してくれたのですよ。」
「へ〜それは何の日?」
「バレンタインデーのお返しをする日だそうです。」
「そっか〜そういう習慣があるのか・・・・」
アロンはそういうとフィラに見つめて
「何にしようか?フィラ?」
「え?え?」
「何が欲しい?何でも言ってごらん。僕の愛しい奥さん。」
「アロン様・・・私・・・一緒にいられるだけでもとても幸せですわ・・・」
「じゃ。今日はもう公務は止めにしてお散歩でもしよう。」
「素敵・・・・」
魔界のトップは愛も変わらず・・・
神谷家では・・・・
学校帰りに卓のところへ押しかけようとした夢々の目の前を卓とココが連れ立って、そして手をしっかりと繋ぎあって通り過ぎ。
風は風で愛良からバレンタインにもらえなかったことをず〜〜〜っと引きずり。
家に帰ったら帰ったでリビングのソファで戦利品の品定めをする母曜子の姿とそれを満足げに眺める父力の姿。
「どうしてなのよぉ〜〜〜〜!!!!」
と二人で情けない顔で部屋に逃げ込む。
なんともはや、なホワイトディには悲喜こもごもががございました♪
お・わ・り
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